4月8日月曜から14日日曜にかけての1週間が日本の音楽業界、もっといえば広くエンタテインメント業界において重要な7日間だったと感じずにはいられません。その作品自体も重要ながら、それぞれの施策等も興味深いのです。
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4月8日月曜、米津玄師さんがニューシングル「さよーならまたいつか!」を配信リリース。既にサブスクでも好調、且つ米津さんはダウンロードも強い歌手であり、4月17日公開分のビルボード ジャパンソングチャートで高位置に初登場を果たすことが見込まれます。
注目は、ミュージックビデオが4月12日金曜8時15分に公開されたということ。米津玄師さんは以前も朝の時間帯にプレミア公開したことがあり、朝の公開は半ば米津さんの専売特許に成りつつあります。職場や教室でその公開の瞬間をチェックした方も少なくないでしょう。
NHK 朝の連続テレビ小説 『虎に翼』主題歌の同曲が、ドラマ第2週最終日の放送終了直後にミュージックビデオ公開を合わせることもさることながら、金曜は米ビルボード におけるグローバルチャートの集計期間初日に当たることもあり(下記リンク先参照)、施策の意味でも巧いと捉えています。YouTube はこのチャートにてストリーミング指標に加算され、4月12~18日を集計期間とする4月27日付チャートでの動向に注目です。
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続いては宇多田ヒカル さん。キャリア初となるベストアルバム『SCIENCE FICTION』を4月10日水曜にリリースしています。このリリースを踏まえ、今週月曜の弊ブログエントリーにて関連プレイリストを紹介しました。
相次ぐメディア番組出演も注目ですが、サブスクやYouTube にてリリースパーティー を続々と開催したことも興味深い動きです。それもリリース当日、Apple MusicおよびSpotify (後者は有料会員限定)の加入者向けに、Stationheadを用いて実施しています。
Stationheadは歌手の推し活として、とりわけ音楽チャートを意識したファンダム内での施策として用いられていますが、歌手の中にも取り入れる方は少なくありません。その中で宇多田ヒカル さんが実施するということを、とても興味深く感じた次第です。なおStationheadについては下記エントリーにて紹介しています。
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さて、宇多田ヒカル さんと同じく1998年にデビューしたaiko さんによるシングル「相思相愛」がヒットの兆しをみせています。
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「相思相愛」は劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』主題歌として4月12日金曜に配信開始。この配信と同時に公開された映画は、シリーズ最高の興行収入 を記録した前作(劇場版『名探偵コナン 黒鉄の魚影』)を上回る好スタートを切っています。そうなると前作主題歌として大人気となったスピッツ 「美しい鰭」クラスの、ベテラン歌手によるサブスクヒットが期待できるのです。
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「相思相愛」はその解禁日における日本のSpotify デイリーチャートで50位以内に初登場し、好発進を記録。これはSpotify の各種キャンペーンも功を奏した形ですが、LINE MUSICでも50位以内に入り、サブスクサービスに関係なく上々の出だしをみせているのがポイントです。Spotify とのキャンペーンは、映画を観た方に対しaiko 「相思相愛」を、サブスクサービスの区別なくチェックする動機を与えているといえるでしょう。
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aiko さんが「相思相愛」をリリースした4月12日には、Mrs. GREEN APPLE 「ライラック 」もリリース。こちらはテレビアニメ『忘却バッテリー』(テレビ東京 ほか)のオープニングテーマとして起用され、ミュージックビデオもリリース日に公開されました。
Mrs. GREEN APPLE においては今年1月リリースの「ナハトムジー ク」に続き「ライラック 」でもコンテンツカレンダーを用意。K-POP で徹底されている施策をMrs. GREEN APPLE もきちんと実施し、リリース直後までのスケジュールを公開することでコアファン、さらにはライト層にも新曲への期待度を高めることに成功したといえるでしょう。
日本におけるSpotify デイリーチャートではフラゲ 日に51位初登場を果たし、翌日に早くもトップ10入り。日本の1日の区切りが24時以降であるためこのようなフラゲ 的ランクインが生まれるのですが、これは歌手の人気のみならず曲への注目度の高さゆえとも考えられます。
日本時間で4月15日月曜、現地時間の14日日曜に開催されたコーチェラ・フェスティバル 1週目の最終日、88risingのステージには日本の歌手が4組登場(サプライズ出演を除く)。その中の一組であるNumber_iは4月12日の『ミュージックステーション 』(テレビ朝日 )にてNumber_iとして初出演、そしてNumber_iがかつて所属していた事務所に現在も在籍するWEST.および20th Centuryと共演を果たしました。
Number_iは4月1日放送の『CDTV ライブ!ライブ!』(TBS)にてTravis Japan と同じスタジオにいたものの両者が一度に同じ画面に登場することはなかったのですが、『ミュージックステーション 』ではがっちり共演。歌手間での交流がきちんとあることが解り、安堵した方はきっと多いことでしょう。ただ、自分はまだ完全な状況ではないと感じてもいます。
そのNumber_iは、ファーストシングル「GOAT」のフィジカル盤におけるカップ リングの1曲だった「Blow Your Cover」を4月12日金曜にセカンドシングルとして、複数のバージョンを加えてデジタルリリ ース。金曜リリースは先述したようにグローバルチャート向けの施策ともいえます。88risingのフックアップ、コーチェラ・フェスティバル の出演が、世界への意識を高めたといえるかもしれません。
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Number_iのメンバーがかつて所属していた旧ジャニーズ事務所 では、4月10日水曜に所属歌手が一同に介したイベント『WE ARE! Let's get the party STARTO!!』を開催。このイベントは後日大阪でも開催されますが、東京公演の終了後となる同日21時、STARTO for you名義にて「WE ARE」を配信開始。収益が能登半島地震 で被災された方への義援金 に充てられるのですが、フィジカルに先駆けてデジタルリリ ースされたのが特徴です。
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旧ジャニーズ事務所 所属歌手による直近のチャリティー ソングにはTwenty★Twenty名義での「smile」があり、デジタル先行/フィジカル後発リリースという点でも共通していますが、しかしデジタルは期間限定の解禁にとどまり、今回の「WE ARE」においても同様の模様です。
※本シングル、ならびに配信楽 曲は、すべて2024年12月31日までの期間限定販売となります。
チャリティー ソングゆえの措置かもしれませんが、しかし聴かれ続ける限り利益が発生することを考慮すれば、解禁を続けることは重要と考えます。そしてデジタルに明るくないという姿勢を組織変更後も踏襲している旧ジャニーズ事務所 側に対し、逆風が吹き続けるのではないか、変わったことを訴求できないのではないかと捉えています。
(なお、その旧ジャニーズ事務所 から新たに”CDデビュー”するAぇ!groupについては後日採り上げ、私見 を記します。)
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海外ツアーを開催、またコーチェラ・フェスティバル では88risingステージ共々単独でも登場したYOASOBI。彼らの代表曲「アイドル」の英語詞版(「Idol」)を含む英語詞EP『E-SIDE 3』が4月12日金曜にデジタルリリ ースされています。
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「Idol」は金曜リリースされたことで日本の楽曲として初めて、米ビルボード によるGlobal Excl. U.S.(Global 200から米の分を除く)を制しています。YOASOBIとしてのコーチェラ・フェスティバル 出演が4月12日金曜(現地時間)であり、そのことも意識したリリース日設定といえるでしょう。やはりYOASOBIのチャート意識は高いとあらためて感じています。
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そして、海外のプロデューサーや歌手と組むことが増えた藤井風さんにも注目が集まっています。藤井さんが出演した『tiny desk concerts JAPAN』(NHK総合 3月16日放送)が、本家タイニーデスクを企画したNPRのYouTube チャンネル経由で4月12日金曜に公開されました。
今回のNPRでの公開(転載)は、NPR側が藤井風さんのパフォーマンスを観て決めたとのこと。韓国にもこの企画がありながらNPRにも掲載されるのは一部に限られ、藤井さん出演回の転載の判断もこの韓国版の流れと似ているかもしれません。
藤井風さん出演回の『tiny desk concerts JAPAN』、そのNPRのYouTube チャンネルにおける再生回数はブログ執筆段階(4月16日8時時点)で既に104回再生を突破しています。この数値が、今後の『tiny desk concerts JAPAN』の本家NPRでの転載につながり、日本の音楽を広める契機と成るかもしれません。
今回紹介した作品の動向は4月17日公開分のビルボード ジャパンソングチャートやアルバムチャート等に影響します(上記Spotify の動向等参照)。これら紹介作品の中から2024年を代表するヒット曲が生まれるかもしれません。そして大晦日 の『NHK紅白歌合戦 』(NHK総合 ほか)にて出場当確となる歌手も出てくる予感がします。
また、4月20日 付や4月27日付の米ビルボード によるグローバルチャートにも注目です。日本の楽曲がグローバルでヒットすれば、コーチェラ・フェスティバル をはじめとする海外の音楽フェスにも日本の歌手が招聘されていくことでしょう。
そして今回紹介した作品はいずれも興味深い施策を行っています。ともすれば施策に対してネガティブな見方を行う方もいらっしゃるかもしれませんが、施策がコアファンとのエンゲージメント強化やライト層へのリリースへの気付き、また初動を高める効果として重要な意味を持つということを理解していただけるならば幸いです。